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立ち退きの正当事由とは? 判例や立ち退き請求の手順、押さえるべきポイントも解説!
2025-10-29

立ち退きの正当事由は、賃貸借契約で、貸主が契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりする際に必要とされる理由です。借地借家法では、この正当事由がなければ、貸主都合の賃貸借契約の解約・更新拒絶はできないとされています。
しかし、この正当事由には、明確な基準はありません。貸主側の立ち退き請求が正当事由に該当するかどうかは、貸主・借主双方の事情や建物の利用状況、建物の現況などをもとに、総合的に判断されます。
こうした事情を踏まえ、本記事では、立ち退きの正当事由について説明した後、立ち退きの正当事由を判断する5つの要素について解説します。正当事由があると認められた立ち退き請求の判例や、立ち退き交渉の具体的手順についても解説するため、ぜひ参考にしてください。

立ち退きの正当事由とは、貸主が借主に対して立ち退き(建物の明け渡し)を求める際に必要とされる事情のことです。
借地借家法によれば、この正当事由がなければ、貸主は、借主に対して賃貸借の期間更新を拒絶したり、解約の申し入れをしたりすることができません。
このルールを規定しているのが、借地借家法第28条です。同条では、建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件が次のように規定されています。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
この条文に規定されているとおり、貸主からの賃貸借契約の解除は、正当の事由があると認められた場合でなければ、行うことはできません。
立ち退きを求める正当事由の具体例
立ち退きを求める正当事由には、借地借家法第28条に例示されているとおり、家主の自己使用の必要性がありますが、次のような項目も正当事由に含まれます。
- 家主の家族、親族、あるいは営業をしている場合は、その従業員に使用させる必要性
- 建物を売却する必要性
- 建物を新築もしくは大修繕する必要性
- 家主と借家人との間の信頼関係が破壊されるような行為があった場合
- 家主が移転先を提供したり、十分な立ち退き料を支払うことを約束したりしている場合
一方、貸主の正当事由に対抗する借主側の事情については、建物を住宅や店舗などに使用する必要性や、移転先の有無などがあります。
立ち退き交渉は契約期間満了の1年前〜6カ月前に行うのが原則
立ち退き交渉は賃貸借契約の契約期間満了の1年前から、6カ月前に行うのが原則とされています。借地借家法第26条で、契約の当事者は1年前から6カ月前までの間に契約の不更新を通知しなければ、従前の契約と同一の条件で契約が更新されると明記されているためです。
((建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
借地借家法では、「立ち退き交渉は契約期間満了の1年前から、6カ月前に行わなければならない」と明記されているわけではありません。しかし、同法の条文に基づくと、貸主はこの期間内に借主に契約不更新を通知しなければ、立ち退き請求の効力が否定される可能性が高いと解釈されます。

立ち退きの正当事由を判断する要素は、次の5つです。
- 貸主・借主の事情
- 賃貸借契約に至るこれまでの経過
- 土地や建物の利用状況
- 建物の現況
- 財産上の給付
訴訟まで発展すれば、裁判所は上記5つの要素をもとに、貸主の請求内容が立ち退きの正当事由に該当するかどうかを判断します。ぜひ参考にしてください。
貸主・借主の事情
貸主・借主の事情とは、貸主と借主がその建物の使用を必要とする事情です。裁判所が正当事由を判断する際の主位的な判断要素とされ、貸主であれば老朽化に伴う建物の取り壊しや、自己使用を目的とした建て替えが、該当します。
一方、借主であれば長年の居住や、営業による生活基盤の喪失などが挙げられます。
賃貸借契約に至るこれまでの経過
賃貸借契約に至るこれまでの経過とは、具体的に賃貸借契約の期間の長さや、借主による家賃の支払い状況、更新の有無などです。
これらの要素は、立ち退き請求に信頼関係破壊の法理(*)が適用されるかどうかを判断するうえで、考慮されます。
*信頼関係破壊の法理:借主の債務不履行が、賃貸借契約の基礎をなす信頼関係を破壊する程度に至っていないときは、催告の上で契約解除の意思表示がなされたとしても、なお契約解除の効力を否定するという理論
土地や建物の利用状況
土地や建物の利用状況では、「借主が建物をどのように利用しているか」「利用頻度はどのくらいか」など、利用の態様が判断されます。
判断の結果、借主がペット不可の物件で小動物を無断で買うなど、契約に反した方法で物件を利用している場合は、貸主による立ち退き請求の「正当の事由」が認められやすくなります。
建物の現況
建物の現況では、建物の老朽化の程度や、残存する法定耐用年数、大規模修繕の履歴などが判断されます。
判断される要素は、建物の状態だけではありません。現在の建物が、立地地域の標準的な使用形態に適合しているかどうかも考慮されます。
標準的な使用形態とは、不動産鑑定にも用いられる概念の一つであり、その地域内で最も一般的な不動産の使用方法を指します。たとえば、戸建て住宅が建ち並ぶ地域での標準的使用は戸建て住宅地となるほか、高層事務所ビルが建ち並ぶ地域での標準的使用は高層事務所ビルの敷地となります。
財産上の給付
財産上の給付では、貸主が借主に立ち退き請求する際に、立ち退き料を申し出るか、代替物件を提供するかが判断されます。
このように財産上の給付にはさまざまな種類がありますが、判例上、大多数を占めているのは、立ち退き料です。立ち退き料は、貸主側の正当事由を補完する役割があります。
正当事由と立ち退き料は反比例の関係にあり、正当事由が強い場合、立ち退き料の金額が下がりやすい一方、正当事由が弱い場合、立ち退き料の金額が上がりやすい傾向にあります。

正当事由があると認められた立ち退き請求の判例には、次の6つがあります。
- 建物の老朽化が正当事由として認められた判例
- 賃貸人の自己使用が正当事由として認められた判例
- 建物の再開発などが正当事由として認められた判例
- 賃借人の賃料滞納が正当事由として認められた判例
- 借主の迷惑行為が正当事由として認められた判例
- 動物禁止特約に反する動物の飼育が正当事由として認められた判例
これらの判例を把握しておけば、法的措置に基づいて借主に立ち退きを請求する際に、請求が認められるかどうか見通しが立ちやすくなります。ぜひ参考にしてください。
建物の老朽化が正当事由として認められた判例
建物の老朽化が正当事由として認められた判例には、東京地裁令和2年2月18日判決ウエストロー・ジャパンがあります。
この裁判は、原賃貸人の死亡に伴い賃貸借契約の地位を受け継いだXらが、アパートの賃借人Yに対して建物の明け渡しを求めた事案です。
本事案において裁判所は、Yに解約申入れ時における賃料滞納事実が見当たらないことなどから、老朽化した建物の貸主からの解約申入れに、直ちに正当事由があるとはいえないとしました。
一方、アパートは解約申入れ時に築45年以上が経過しており、老朽化が顕著であることなどから、裁判所は、正当事由の補完としての立ち退き料100万円をもって、Xらの立ち退き請求を認容する判決を下しました。
賃貸人の自己使用が正当事由として認められた判例
賃貸人の自己使用が正当事由として認められた判例には、東京地裁平成25年1月25日判決ウエストロー・ジャパンがあります。
この裁判は、学校法人Xが、期間満了後も土地を継続使用した賃借人Yに、土地に建築された建物の収去と土地の明け渡し、月額賃料の3倍の約定使用損害金の支払いを求めた事案です。
本事案では、裁判所はYが自宅兼うどん店として使用している建物を収去して土地を明け渡すと生計の手段が断たれ、影響は甚大としながらも、学校法人Xは大学病院の設置など公共性の高い使命を担っているとし、土地の自己使用の必要性はX側の事情がY側の事情を上回ると判断。
しかし、Y側の事情も切実であることから、裁判所は建物の収去と土地の明け渡しを求めるXの請求について、立ち退き料2,000万円の支払いと引き換えに認容する判決を下しました。
建物の再開発などが正当事由として認められた判例
建物の再開発などが正当事由として認められた判例には、東京地判平成26年7月1日判決認容ウエストロー・ジャパンがあります。
この裁判では、都心ターミナル駅前に存在するビルを購入したX社が、当該ビルの賃借人であるYらに対し、近接する自社ビルとの一体開発を目的として建物の明け渡しを求めます。
しかし、Yらは明け渡しを拒絶したため、X社は提訴し、立ち退き料の支払いと引き換えに、建物の明け渡しを求めました。
X社の請求に対し、裁判所は、X社が周辺地域で商業化や土地の高度利用が進んでいる自社ビルとの一体開発のために、老朽化した当該ビルを取得したことについて、一定の必然性・合理性があると判断。180万円の立ち退き料を条件に、X社の建物の明け渡し請求を認容する判決を下しました。
賃借人の賃料滞納が正当事由として認められた判例
賃借人の賃料滞納が正当事由として認められた判例には、大阪高判平25年11月22日判決ウエストロー・ジャパンがあります。
この裁判では、賃借人Yが2012年2月以降、賃料等の滞納を繰り返したことで、滞納が常態化。賃貸人XはYが再三の催告にもかかわらず、賃料等を支払わなかったことから、賃貸借契約の信頼関係が破壊されているとして、建物の明け渡しを求めました。
Yは保証会社が賃料等を代位弁済していることから、賃料等の不払いはないと主張しましたが、裁判所は保証会社による支払いは代位弁済であり、Yによる賃料の支払いではないと認定。Yの主張を棄却し、Xの建物明け渡し請求を認容する判決を下しました。
借主の迷惑行為が正当事由として認められた判例
借主の迷惑行為が正当事由として認められた判例には、東京地裁令和3年6月30日ウエストロー・ジャパンがあります。
この裁判では、賃貸人Xが2019年5月、「ほかの入居者に迷惑をかければ、通知・催告をせずに賃貸借契約を解除できる」とする賃貸借契約を賃借人Yと締結しました。
しかし、Yは2019年7月以降、理由もなく、夜中や明け方にほかの部屋を訪問し、インターホンを鳴らす、玄関ドアをたたくといった行為を繰り返し、ほかの居室の住人とのトラブルを起こしました。
結果、ほかの住人がYの迷惑行為を理由に退去する事態に発展したことから、Xは、Yに対して居室の明け渡しを求める訴訟を提起。裁判所は、迷惑行為の態様や契約書の条項などをもとにXの請求を認め、Yに居室の明け渡しを命じました。
動物禁止特約に反する動物の飼育が正当事由として認められた判例
動物禁止特約に反する動物の飼育が正当事由として認められた判例には、東京地裁平成22年2月24日判決があります。
この裁判では、貸主Xが2009年5月から借主Yに一軒家を貸していたところ、翌月6月に小動物の飼育や持ち込みを禁止する賃貸借契約の約定に反して、Yは建物内でフェネックギツネ(小型の狐)を飼育していたことが判明しました。
これを受けて、XはYに飼育の停止を求めましたが、その後も飼育を続けたため、Yに賃貸借契約の終了に基づく建物の明け渡しをするよう提訴しました。
これに対し、裁判所は、Xの飼育行為停止の要望を聞き入れずにフェネックキツネの飼育を継続したことが、賃貸借契約における当事者間の信頼関係の崩壊をもたらしたと認定。Xの契約解除の意思表示は有効であるとして、Yに建物の引渡しを命じました。

立ち退き交渉は具体的に次のような手順で進めていきます。
- 契約を更新しない旨を通知する
- 任意交渉
- 明渡請求訴訟
- 判決に基づく退去要請
実際に訴訟まで発展するケースは決して多くありません。ただ、万が一に備えて参考にしてください。
契約を更新しない旨を通知する
まずは借主に賃貸借契約を更新しない旨を契約期間満了の6カ月から1年前までに、内容証明郵便で通知しましょう。
更新拒絶の通知例は次のとおりです。
拝啓、貴殿と私間の後記表示の建物についての平成◯年◯付賃貸借契約は、きたる令和◯年◯月◯日をもって、約定の満2年間という賃貸借契約が満了いたします。
任意交渉
更新拒絶を通知した後は直接か、弁護士や不動産業者といった第三者を交えて借主との任意交渉を進めましょう。
立ち退きの任意交渉は借主側の契約違反を前提とした交渉か、純然たる取引としての明け渡し交渉かに分かれます。後者については、貸主が自ら使用する必要がある場合などの、正当事由による契約期間の更新拒絶による明け渡しや、老朽化した建物の建て替えに伴う明け渡しなどがあります。

いずれの場合も正当事由に裏打ちされた明け渡し請求ですが、決着を急ぐときは多くの場合、借家権を買い取るために立ち退き料を提示するという手段を取らざるを得ません。
立ち退き料の提示は借主が立ち退き請求を受け入れてくれるかどうかに影響を与える要素です。したがって、貸主は、正当事由の合理性の程度に応じて、借主に適切な金額を提示しましょう。
明渡請求訴訟
任意交渉を経ても、借主が立ち退きに応じない場合は、裁判所に明渡請求訴訟を提起することになります。
明渡請求訴訟では、裁判所が貸主、借主双方の事情を聞き、貸主の立ち退き請求が妥当かどうかを判断します。判断の結果、貸主の立ち退き請求が正当と認められれば、借主に明け渡しが命じられることになります。
判決に基づく退去要請
裁判で勝訴した場合は、判決内容をもとに入居者へ退去を要請します。
退去を要請しても借主が物件に居座り続ける場合は、強制執行により物件から強制的に退去させることも可能です。

貸主都合で立ち退きを求める際のポイントには、次の3つがあります。
- 十分な交渉期間を確保しておく
- 明確な退去理由を説明する
- 適切な立ち退き料を提示する
これらのポイントを押さえれば、立ち退き請求が通りやすくなります。ぜひ参考にしてください。
十分な交渉期間を確保しておく
貸主都合で立ち退きを求める場合は、十分な交渉期間を確保しておきましょう。交渉期間が十分にあれば、協議が深まりやすく、貸主、借主双方にとって納得のいく結果になりやすいためです。
逆に契約期間満了の直前など、急な話として立ち退きを請求すると、借主の理解を得られず、スムーズな合意形成ができない可能性があります。十分に注意しましょう。
明確な退去理由を説明する
貸主都合で立ち退きを求める場合は、明確な退去理由を説明しましょう。特に純然たる取引としての明け渡し交渉では、交渉の余地がある場合が多く、退去理由の明確さが借主からの理解を得るうえで重要になるためです。
明確な退去理由を説明するのは、訴訟に発展した際に有利な判決を得るうえでも重要です。それを踏まえ、貸主は借主に明確な退去理由を説明しておくと良いでしょう。
適切な立ち退き料を提示する
貸主都合で立ち退きを求める場合は、適切な立ち退き料を提示しましょう。
ただし、借主に提示する立ち退き料については、借地借家法でも具体的な基準が規定されていません。つまり、貸主と借主双方の合意のもとで立ち退き料は決まります。
したがって、貸主は弁護士や不動産会社など専門家からのアドバイスを受けながら、次の項目に考慮して立ち退き料を提示すると良いでしょう。
- 住居や事務所の移転に必要な引越し代
- 新居を借りるために必要な敷金や礼金、仲介手数料など
- 移転に伴い家賃が上がるときはその差額分
- 借主が物件で店舗を経営している場合は休業中の営業補償
正当事由があれば、貸主は、借主に対して立ち退き請求できます。しかし、借地借家法に基づく借主保護は強力であることから、正当事由があっても、貸主都合での立ち退き請求が法的に認められるのは、容易ではありません。
したがって、借主に立ち退き請求を受け入れてもらうためには、決着までに3〜5年がかかる建物の明け渡し訴訟よりも、任意での話し合いがベターです。借主の事情を考慮しながら、丁寧に対話を重ねていけば、立ち退き交渉がうまくいく可能性が高いでしょう。
「お客さまの利益のために努力することが、自らの利益につながる」という考え方ですので、押し売りをはじめとしたこちら都合のアプローチは一切行っていません。
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